工場の外観検査や部品確認、帳票の転記など、目視確認に時間がかかる業務は少なくありません。確認する対象や件数が多いほど、作業者の負担が大きくなり、判断に時間がかかることがあります。
こうした業務では、画像認識AIを活用することで、カメラ画像や動画から対象物・文字・異常の候補を見つけ、確認作業を支援できます。ただし、撮影環境や画像データの質によって判定結果は変わるため、すべての目視確認をなくせるわけではありません。まずは対象業務を一つに絞り、小さく検証することが大切です。
本記事では、画像認識の基本やできること、導入の5ステップ、活用事例を解説します。
画像認識とは「画像から対象物や状態を判別する技術」のこと

画像認識とは、画像や動画を入力し、写っている対象物・文字・人・状態などを判別して、業務に使える情報として出力する技術です。例えば、次のような結果を出せます。
- 部品が正しく写っているか
- 傷や汚れなど、異常の可能性がある箇所はあるか
- 帳票やラベルの文字を読み取れるか
- 棚にある商品の数はいくつか
画像認識と混同しやすい言葉に「画像処理」があります。画像処理は、明るさの補正やサイズ変更、ノイズの除去など、画像を扱いやすく整える作業です。一方、画像認識は整えた画像から「これは何か」「どこにあるか」「正常か」といった業務判断に使う結果を出す作業を指します。
代表的な画像認識には、画像分類や物体検出、異常検知、文字認識(OCR)、顔認識などがあります。
画像認識技術の歴史
画像認識は、近年になって初めて登場した技術ではありません。画像のパターンから情報を読み取るバーコードや、基準となる画像と比較して情報を把握するテンプレートマッチングを経て、画像データから特徴を学習するディープラーニングへと発展してきました。
| 時期 | 代表的な技術 | 仕組み | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 1940年代以降 | バーコード | バーとスペースの決められたパターンを読み取る | 規格化された情報を安定して扱いやすい |
| ディープラーニング普及前 | テンプレートマッチング | 基準画像と対象画像を比較し、対象物の位置や数量を探す | 対象の向きや明るさが変わると判定しにくくなる場合がある |
| 2010年代以降 | ディープラーニング | 多くの画像データから、形・模様・位置関係などの特徴を学習して判別する | 画像のばらつきや複雑な対象にも対応しやすく、用途が広がっている |
現在はディープラーニングの普及により、撮影条件の違いや対象物の種類がある現場でも、画像データをもとに検証しながら外観検査や物体検出へ活用する選択肢が広がっています。
画像認識でできることは?代表的な6つの活用シーン

ここでは、画像認識の活用方法を代表的な6つのシーンに分けて解説します。
画像認識でできること1:物体認識・物体検出で対象物の有無や位置を確認する
物体認識・物体検出では、部品や商品、設備、工具、棚にある製品などを画像内から見つけます。
出力は
- 対象物があるか
- どこにあるか
- いくつあるか
などです。検品、在庫確認、作業確認で活用できます。
例えば、固定カメラの画像から必要な部品の有無を確認したり、棚に並ぶ商品を数えたりすることが可能です。
人が画像を一枚ずつ確認する負担を減らせる一方、対象物の見逃しや過検出、誤カウントが起きる可能性があります。同じ対象を二重に数えたり、複数の対象を一つの塊として数えたりすることもあるため、業務で使う前に自社画像で確認が必要です。
画像認識でできること2:異常検知で通常と異なる状態の候補を見つける
異常検知では、製品の傷・汚れ・欠けや、設備の通常と異なる状態などを見つけます。入力した画像に対して、AIが異常の可能性がある画像や箇所を示し、担当者が重点的に確認する流れです。
異常検知に画像認識を使うことで、人間では見逃してしまいがちな細かい異常を発見しやすく、品質や安全性の向上が期待できます。
導入時には、何を「正常」「異常」とするかを社内で定義し、見逃しや過検出を評価するための画像を用意しましょう。これにより、AIに任せる範囲と人が最終確認する範囲を決めやすくなります。
画像認識でできること3:文字認識で帳票や画像内の文字をデータ化する
文字認識では、紙書類やPDF画像、検査成績書、作業記録、製品ラベルにある文字を読み取り、テキストデータに変換します。OCR(光学文字認識)は、この文字認識に使われる代表的な技術です。
出力は、
- テキストデータ
- 必要な項目の抽出結果
- 転記用データの下書き
などです。
手入力や目視転記を減らせる一方、数字の読み違いや項目の取り違え、かすれた文字の読み取りミスは起こり得ます。そのため、品質記録や数量など重要な項目は、人が確認する工程を残しましょう。
読み取ったデータは、RPA(定型的なパソコン操作を自動化する仕組み)と連携させることで、システムへの定型的な入力や転記を支援できます。
画像認識でできること4:顔認識・人物検知で人に関する情報を扱う
顔認識・人物検知は、本人確認や入退室管理、店舗や施設の混雑把握などに使われます。
出力は、
- 本人確認の結果
- 人物の有無
- 人数
- 混雑状況
などです。また、工場や倉庫では、作業者の位置や人数を把握する用途も考えられます。
ただし、カメラの死角や人同士の重なり、照明・撮影角度の変化などにより、同じ人を二重に数える、遮蔽物の後で人を見失うといった課題が発生することがあります。
こうした誤認識を減らすには、死角や人の重なりが少ない位置にカメラを設置し、必要に応じて複数台のカメラを使いながら、実際の映像で精度を確認しましょう。また、顔や人物を含む画像では、利用目的、保存期間、アクセス権限、本人同意の要否などを確認する必要があります。
画像認識でできること5:画像キャプション生成で画像の内容を文章にする
画像キャプション生成は、画像に写る物体やその状況を解析し、内容を文章として出力する技術です。
この技術は、画像を探しやすくするための分類・検索や、画像の内容を音声読み上げなどで伝えるアクセシビリティ支援に役立ちます。
ただし、写真ごとに説明を作成する手間を抑えられる一方、AIが推測した内容が事実と異なる場合もあります。業務記録や公開情報に利用するときは、担当者が画像と見比べて内容を確認しましょう。
画像認識でできること6:セグメンテーションで対象物の領域を細かく特定する
画像認識では、セグメンテーションにも活用可能です。
物体検出は対象物の位置を特定する技術であるのに対し、セグメンテーションは画像を画素ごとに分類し、対象物の領域を識別する技術です。
製品画像や設備画像、道路画像などを入力すると、対象物や異常箇所を領域として分けた結果を得られます。対象物の有無だけでなく、傷や対象領域の位置・範囲まで把握したい業務で有効です。
ディープラーニングを用いた画像認識の仕組み

現在の画像認識では、機械学習の手法の一つであるディープラーニングを使い、多くの画像データから対象物の特徴を学習する方法が多く用いられています。
従来の方法では、人が「この形なら対象物らしい」と判断するための特徴を設計する必要がありました。一方ディープラーニングでは、画像に含まれる形・輪郭・模様などの特徴をデータから学習できます。
ここでは、CNNとPythonを中心に、画像認識を実現するための方法を紹介します。
CNNで画像の特徴を捉えて対象物を認識する
CNN(畳み込みニューラルネットワーク)は、画像や動画などの特徴を捉え、物体の分類や検出に利用される代表的な仕組みです。画像を入力すると、輪郭や形状などの局所的な特徴を捉え、対象物の種類や位置などを出力します。製品の外観検査や物体検出でも活用できる技術です。
なお、超解像などの画像改善ではGAN(敵対的生成ネットワーク)が用いられてきました。また、昨今は拡散モデルを活用した手法も注目されています。
Pythonを使って画像認識を実装する
Pythonは、画像認識AIの開発や検証をおこなうためのプログラミング言語としてよく使われています。文法が比較的シンプルで、画像処理やAIに役立つライブラリが充実しているためです。
代表的なライブラリであるOpenCVを使うと、画像の読み込みやトリミング、リサイズ、フィルター処理などをプログラムでおこなえます。こうした処理は、AIに学習させる画像データの前処理にも活用されます。
画像の中にある対象物を検出するには、あらかじめAIに画像を学習させた上で、識別モデルの作成が必要です。
例えばOpenCVのカスケード分類器では、検出したい対象を含む画像と含まない画像を集め、特徴を学習させて分類器を作成します。作成した分類器を使うことで、画像内の対象物を検出できるようになります。
画像認識のやり方とは?AI導入の5ステップ

画像認識を導入する際は、最初から全社・全工程へ展開するのではなく、1つの業務、1種類の画像から小さく検証するのが基本です。ここでは、導入の流れを5ステップで説明します。
手順1:認識させたい業務と画像データを決める
まず、外観検査や品確認、帳票読み取り、在庫確認などから、改善したい業務を一つに絞ります。次に、検査写真や帳票画像など何を入力するのか、異常候補・文字データ・数量など何を出力してほしいのかを具体化しましょう。
この段階では、「何を入力し、何を出力し、どの業務で使うか」を一文で説明できる状態を目安にします。例えば「検査台で撮影した部品画像から、傷の候補を表示し、検査員が最終判定する」と整理します。
手順2:現場条件に近い画像を集める
次に、実際の運用条件に近い画像を集めます。照明や撮影角度、背景、汚れ、撮影距離が違うと、検証時には判定できても本番では安定しないことがあります。
正常画像だけでなく、異常画像、見逃しや過検出が起こりやすい画像も検証用に含めましょう。ここでは、PoC(小規模な検証)で使用する画像の範囲と、評価に使う画像が整理できていることを目安にしましょう。
手順3:画像を加工し、必要に応じてラベル付けを行う
画像は、必要に応じて明るさ補正、サイズ変更、対象領域の切り出しなどをおこない、扱いやすい状態に整えます。自社でモデルを作る場合は、用途に応じたラベル付けも必要です。
《ラベル付けの例》
- 良品・不良品
- 部品の種類
- 対象物の位置
- 正常・異常
ラベルとは、AIにとっての正解を示す印です。例えば物体検出なら画像内の部品を囲み、異常検知なら異常の有無を記録します。この段階では、検証用画像に加え、AIの出力を評価するための正解データと判断基準が用意できていることを目安にします。
手順4:方法を選び、自社の画像でPoC検証する
画像認識の実現方法には、自社開発や事前学習済みモデルの利用、既製APIの利用などがあります。対象業務、必要な精度、社内の開発体制、画像を外部へ送信できるかといった条件に合わせて選びましょう。
PoCでは、自社画像を使って見逃し、過検出、誤カウント、読み取りミスを確認します。その上で、業務で許容できる範囲かを評価し、AIに任せる範囲と人が確認する範囲を決めましょう。ここで十分な結果が得られない場合は、画像や撮影条件、判断基準を見直してから次へ進みます。
手順5:検証結果をもとに改善・運用方法を決める
PoCで確認した見逃し、過検出、誤カウントなどをもとに、画像や撮影条件、ラベル、モデルを見直します。本番運用を始めた後も、照明や背景、対象物の変化によって判定結果が変わる可能性があります。
導入前に、改善の担当者、再評価するタイミング、人が確認する条件を決めておきましょう。失敗した画像も記録し、定期的に評価・改善できる体制を作ることが、継続的な活用につながります。
画像認識を導入する際の注意点

ここでは、画像認識を導入する際の注意点を5つ整理します。
画像認識をおこなう環境やデータの質が結果に影響することもあるため、実施前にチェックしてください。
画像データの質が低いと精度が安定しない
暗い画像、ぶれた画像、背景が大きく異なる画像、撮影角度が変わった画像では、見逃しや過検出が増える可能性があります。
画像認識の精度を安定させるには、実運用に近い画像を使い、撮影位置や照明などのルール、画像品質の基準を整えましょう。
見逃し・過検出を前提に人間の確認工程を残す
画像認識では、見逃し、過検出、誤カウント、文字の読み取りミスが起こり得ます。
そのため、AIの出力をそのまま最終判断にせず、PoCで許容範囲を定め、異常候補や重要な記録は人が確認する工程を設けることが重要です。
判定理由がわかりにくい場合がある
ディープラーニングを使った画像認識では、AIが画像のどの部分を根拠に「良品」「不良品」などと判断したのかを、すぐに説明できないことがあります。
品質に関する判断やトラブル発生時に確認できるよう、評価結果、AIの判定内容、人が確認した結果、承認した記録を残す運用にしましょう。
人物や顔を含む画像はプライバシー確認が必要になる
顔や人物、個人情報を含む画像を認識する場合は、利用目的や保存期間、アクセス権限、本人同意の要否を確認する必要があります。
詳細な対応は、導入前に法務部門や情報システム部門へ相談しましょう。
導入後も改善と運用体制が必要になる
画像認識をおこなう際、撮影環境や対象物が変わると、導入後に見逃しや過検出が増えることがあります。
安定した運用を実現するには、失敗データを蓄積し、定期的に評価してモデルや設定を見直せるよう、運用担当者と改善方法をあらかじめ決めておくことが必要です。
画像認識AIの活用事例3選

ここでは、アラヤの事例から、画像認識が実際の業務でどのように使われているかを紹介します。
事例1:インフラ構造物のボルト締結検査を自動化
インフラ構造物のボルト締結状況を、従来の検査員による目視確認からAIによる判定を実現した事例です。タブレットで撮影した動画を入力し、検査項目に応じて物体検出、画像分類、セグメンテーションを組み合わせ、「正常/異常」と異常理由を出力する構成にしています。
これにより、ボルトごとに目視で確認する時間や、高所で確認する時間を減らす支援につながります。
一方、最終的な安全判断はAI任せにせず、出力内容を検査業務の基準に沿って確認する運用が必要です。
事例2:精密器具の検品作業を画像認識AIで効率化
精密器具を、ベテランやパートタイムの検査員が目視で確認していたのに対し、画像認識技術を導入した事例です。固定カメラで撮影した画像を入力し、AIが良品・不良品を判定して画面に表示します。作業者は画面上の判定結果を確認し、最終判断に活用します。
この事例では、撮影条件によって傷や汚れの写り方が変わることに対応するため、データ増強や、判定に適した画像の抽出をおこないました。学習用の画像データと撮影環境の整備が、導入時の重要な工程であることが分かります。
事例3:画像認識AIで作業車両と作業員の接近を検知
作業現場に設置した定点カメラの映像から、作業車両や作業員を検出し、位置関係や進行方向などをもとに危険な接近を判定します。カメラ映像を入力し、物体検出や座標変換、危険判定を経て、警報機・PC・スマートフォンなどへ通知する構成です。
管理者が映像を見続ける代わりに、AIが危険候補を検知して通知することで、安全管理や危険行動の分析に活用できます。導入時は、カメラ位置や対象エリア、通知の条件を現場に合わせて検討する必要があります。
自社の画像で実現できるか、どの技術や方法が適しているかを検討したい場合は、アラヤの画像認識AIソリューションをご覧ください。現場課題の整理から、実現性の検討、PoC、本番運用までを見据えて相談できます。

まとめ|画像認識のやり方を理解し、自社業務に合う活用方法を検討しよう
- 画像認識は、画像や動画から対象物・文字・状態を判別し、検品や外観検査、帳票処理などを支援する技術
- 導入は、対象業務の決定、現場画像の収集、画像加工・ラベル付け、PoC、改善・運用設計の5ステップで進める
- 判定結果は画像データや撮影条件に左右されるため、見逃し・過検出を評価し、人が確認する工程を残すことが大切
画像認識は、AIにすべてを任せるためのものではなく、現場の確認作業や判断を支えるための技術です。
まずは、現場で目視確認に時間がかかっている業務を一つ選びましょう。その業務で使っている画像と、AIに出してほしい結果を紙や表に書き出すと、試すべき画像認識の方法が見えやすくなります。


